第3章 斎藤一の煽動
鈍い音を発てて重い扉を開くと、薄暗い土蔵の中に日射しが差し込む。
相変わらず両手首を拘束されたまま座り込んでいる女は、その日射しを浴びて眩しそうに目を細めた。
「……食事だ。」
俺は持っていた膳を女の前に置き手首の拘束を弛めようと近付くと、緩んだ襟から覗く艶めかしい胸元に目を奪われる。
男物の浴衣を乱雑に着せてあるだけなのが反って女の身体を強調し、その緩んだ襟も乱れた裾も副長との行為を思い起こさせ俺は小さく喉を鳴らした。
そんな事を考えた自分を恥じながら女の拘束を弛める。
「一昨日も昨日も何も口にしていないだろう。
意地を張っているだけならば遠慮せずに食え。」
捕縛した翌日から俺は朝夕と一日に二度食事を運んでいたが、何故かこの女は一切口を付けなかった。
反抗しているのかとも思ったが、様子を見る限りそういう訳でも無いようだ。
それを証明するかのように、丸二日何も口にしていないとは思えぬ程、女は全く憔悴も疲弊もしていなかった。
そして今日も目の前に置かれた膳には目もくれない。
「あんたがどうやって副長を懐柔したのかは分からぬが、
俺は副長のようにはいかぬからな。
勤めを果たす為ならば、女の身体を傷付ける事にも
全く躊躇いは無い。」
女は相変わらず怯える様子も見せず、ただ俺の顔をじっと見つめている。
「食わぬのか?
食わないのならば早々に始めるぞ。」
動揺や困惑を見せたら漬け込まれる……そう思った俺は女の前にある膳を乱暴に退かし、その細い首を片手でぎりぎりと締め上げた。
「あんたの知っている事を全て吐け。」
喉に食い込ませるように少しずつ力を強めると、流石に女は苦しそうに眉を寄せた。