第3章 斎藤一の煽動
今朝、朝餉の前に副長が俺の部屋に来た。
「すまねえが……俺にはもう手に負えねえ。」
そう言って頭を下げる副長が何の事を言っているのか最初は分からなかったが、恥じるようでいて悔しさを滲ませる副長の表情に、あの女の事だと感付いた。
副長が手に負えないと音を上げる姿など初めて目にした俺は僅かに動揺した。
一体あの女は何者なんだ?
俺の中にほんの少しの畏敬の念と圧倒的な好奇心が沸き上がる。
「俺が引き継ぎます。」
努めて冷静にそう告げると、副長が安心したように「頼む」とまた頭を下げた。
関わりたくないと言った左之と平助には特に何も伝えず、総司にだけ簡単に事の顛末を聞かせた。
副長が音を上げた事には総司も随分驚いていたが……。
「それで一君はどうするの?
土方さんと同じ事を繰り返すつもり?」
そう総司に問われても、俺自身まだ自分がどうすべきか決めかねている。
「分からん。
ただ、あの女の口から全てを聞き出す為に
俺は勤めを果たすまでだ。」
俺が言うと、総司は「そっか……」と一言だけ呟いて心配そうな目をした。