Run.run and fly. ーハイキュー!!ー
第1章 東北自動車道 下り
東北にも春が来た。
桜が綻び、奥羽の地はゆるゆると暖かさに身を解き始めた。
桜は今が間際、季節は間もなく一年で一番過ごしやすい至極短い時候、初夏を迎える。春の樹花はあちこちに眩しい真白や様々な濃淡の紅を咲き溢し、淡い緑に萌える山を笑わせている。
高速だからとずっとウズウズと我慢していた日向が、とうとう堪りかねてバスの窓を開け放って車外に顔を突き出した。
「うっひゃ~ッ、気持ちいー!!!」
時速百キロの向かい風を顔面に浴び、大口開けて叫んだ日向の後ろから、これもまた身を乗り出して車外を臨んだ田中がバカ笑いする。
「ダバハハハハハハハッ!何だこりゃ、面白えェ!気持ちいー!」
「アハハバハッ!楽しいっスッ!!!」
「ガハハバハハッ!や、やべぇ、笑いが止まんねえなッ、これェッ!ダハハハッ」
「ダハハじゃねえ!何やってンだ、お前らは!危ない真似すんな、バカッ!」
呆れ混じりの厳しい声と共に、二人の頭がゴヂンと打ち付けられた。
「あがッ!」
二人は頭を押さえてトスッと座席に尻をついた。
狭い通路に窮屈そうに立った主将の澤村が、腰に手をあてて二人をじっと見ている。
田中がビョンと頭を下げた。
「すんまっせん、大地さん!調子ン乗りましたッ」
「ほおぉお~、た、田中さん、あったまかってぇースよー・・・。いってェー・・・」
ダイヤモンドは砕けない田中の頭に大ダメージを受けた日向が座席にうずくまって呻いている。
「高速で外に顔出しちゃ危ねえべ?間違って落っこちたら遠征もおじゃんになんぞ。バカな事してるとここで降ろしちまうからな?」
前の座席からヒョッと顔を出した菅原が、にやッと笑う。
「残念だな。誠梅高は最近まで女子高だったくらいだから女子も多いんじゃないか?女子バレーも強いだけじゃなくて、可愛いコ多いよな、あそこ」
「学校のすぐ目の前に白鳥が飛来する池があるのよね。池の周りには桜が咲いて、凄く良いところみたい」
谷地さんとるるぶ盛岡を熱心に見ていた潔子さんが、澤村を見上げてちょっと笑った。
「楽しみね」
「・・・・・・!!!!!」
それを見た田中が胸を押さえて座席でぐうぅと呻きながら悶えた。
「あり?どうしたンすか、田中さん。顔が赤黒くなってますよ!?わ、やだ、怖いよ、怖い怖い。死ぬの?田中さん死ぬの?」