第1章 お嫁さんになりたい!
おうちょっと面貸せや。
赤葦先輩の「顔を貸す」とは、つまり、そういうことだった。俺がいた世界じゃ当たり前の挨拶。ただ今回はワケが違う。
薄暗い体育倉庫。
相対するのは、バレー部副主将にして正セッターの赤葦先輩だ。
喧嘩、ではないよな。たぶん。
赤葦先輩は頭がいい。
全国区の強豪校で暴力沙汰はマズいし、大事な身体をくだらない喧嘩になんて使わない。と思う。
じゃあ、何のために。
その疑問の答えを俺が知るのは、この、直後のことだった。
「お前、木兎さんに惚れてるね」
語尾に疑問符がついたような。
独特なその問い方に、ドキリと心臓が脈を打つ。さすがにビビった。こうも直球で問われるとは夢にも思ってなかったから。
別に、隠すつもりはない。
元々同性愛に偏見はないし、それが悪いことだなんて、もちろん思わない。だから。だから俺は頷いた。
ゆっくりと、深く、頷いた。