第1章 お嫁さんになりたい!
大興奮の仮入部初日を終えたあと。
俺は、学校指定ジャージを着たまま体育館を後にした。思い起こすのは木兎先輩の台詞。
『櫻田! また明日、な!』
夢見心地とはこの事だ。
劣情からはじまった興味とはいえ、俺は今や、バレーそのものの虜でもある。それを憧れの先輩に教えてもらえるのだから、喜びも一塩ってもんだろう。
新たな生活の始まり。
荒んだ毎日から抜け出して、真面目に青春してみるのもアリかもしんねえな。なんて。
群青に染まりつつある空を見上げて、そう思ったんだ。
「櫻田」
耳に飛びこんだ声。
それはあまりに唐突で。
高いようで、低いような。中性的な印象を受ける赤葦先輩の声だった。
振りかえって、沈黙。
先輩はほぼ無表情で俺を見ている。その顔に感情は見てとれない。一体、なにを考えているのだろうか。
ググ、と眉間に皺を寄せて、本能的にメンチをきった。赤葦先輩は怯まない。怯まないどころか、小さく笑みすら浮かべて、言うのだ。
「ちょっと顔貸してくれる?」
事件はこうして起きた。