第1章 お嫁さんになりたい!
「……別に、見学してるだけッス。自分、バレー、好きなんで」
ブチッ、なにかが切れる音。
それは紛れもなく赤葦先輩の逆鱗に触れた音だったのだけれど、直後、聞こえてきた木兎先輩の声によってうやむやに掻き消されてしまった。
「ほらなー? だから言ったろ、あいつ、絶対入部希望だぜって!」
言いながらこっちに近付いてくる木兎先輩。あと3m、2m、1m……んああゼロ距離に先輩の御御足(おみあし)があああ!
絶頂だ。幸せの。
これまでの人生でダントツトップに最高の瞬間である。我が生涯に一片の悔いなし。いや、やっぱり先輩に一辺抱かれてから人生終えたい。
「お前、一年? 名前は?」
「ひゃい! 櫻田ッス!」
「はは、ガチガチじゃん。そんな緊張すんなよ。んで、バレーやりたいの?」
みるみる内に赤葦先輩の顔が歪んでいく。けど、もうそんなこと構っちゃいられない。
これは、千載一遇の好機だ。
俺はこれでもかと首を縦に振って、見事、バレー部への仮入部を(主将直々に)認めてもらったのである。