第7章 戸惑う心
「冗談言わないでよ。
迷った分だけ命が失われて行く。
そんな甘いこと言ってられない」
そう。
外科医として生きて行くと決めたあの日に自身の甘えや心を捨て、自分の脚で立ち続けると誓ったのだ。
今更ここで弱気になる訳にはいかない。
「冗談なんか言ってないよ。
あのねぇ、神那ちゃんは医者である前に人間だよ。
女性だからとかそういうことを言ってる訳じゃないけど。
この世に完璧な人間なんて居ないし、そうなろうとしなくても良い。
辛い時には弱音を吐いたって、泣いたって良い。
僕はそれを情けないとは思わない。
感情を無理に切り捨てる必要はないの。
機械とは違う、ちゃんと心があるんだから。
…僕を、周りの人達をもっと信じなさい。
僕は腕だけじゃなく、神那ちゃん自身も信じてるから」
肩に手を置き、真っ直ぐと目を見て話す神崎。
…神崎の言葉に救われる日が来るなんて思ってもいなかった。
心にかかった黒い雲がどんどん払われて行くのが分かる。
気を抜くと泣き出してしまいそうな、暖かくて優しい言葉。
「…煩い、分かってる」
素直にお礼が言えなくて、こういった憎まれ口しか叩けない。
人の感情に疎くて、人格じゃなく実力を求める。
そんな私でも信じてくれる人が居るんだ、そう思った。
「はいはい。
良かった、すっかりいつもの調子だね」
一瞬で二ヘラ、と砕けた笑みへと変わる神崎。
この切り替えはいつもながら早い。
自分の気持ちを素直に吐き出したのは…。
一体いつ以来だろうか。