第4章 現実
「あの霜月先生……ちょっと宜しいですか?
お話がしたいという方がいらっしゃってるのですが……」
ステーションの入口で言いにくそうに話す看護師。
私が話しかけにくいのか、内容が話しづらいのか。
まぁ情報さえ正確に伝えてくれれば、どちらでも良いんだけど。
「患者?その家族?」
「いえ、ご遺族の方です。先日亡くなった片岡様の……」
あの人またか、面倒だな。
「どうなさいます?お引き取り頂きますか?」
「いや、大丈夫。行く」
「分かりました、お願いします。
今は待合室に居らっしゃいます」
コーヒーを飲み干し、席を立つ。
「あっ、俺も行きますっ」
*****
待合室で脚を組んで座っている遺族の前に立つ。
待っていた遺族は亡くなった患者の1人娘、といっても50過ぎの女性。
こちらが何を言っても聞く耳を持たず、偏った解釈をしている。
「あんた訴えるわ」
開口1番にそれか。
相変わらずそれしか考えられないの?
入院しても治らない患者が居るって、なぜ分からない?
それにどうせ待つなら人の居ない応接室にすれば良いのに。
他の人に迷惑が掛かるのが分からないのか。
「え!?う、訴えるって。
神那先生が何かしたんですか?」
「狼狽えない、鬱陶しい」
「何かって……医療ミスよ医療ミス!」
立ち上がりビシッと指を指す。
「えぇ⁉︎」
相変わらずのオーバーリアクション。
呆れを通り越して感嘆するわ、よくも何度も大袈裟なリアクションが出来るものかと。
この人とは話すだけ時間の無駄。さっさと切り上げて続きの仕事をやろう。
「……患者やその家族はいつもそう。
困った時は頭を下げ、助からなかったら医療ミスじゃないかと騒ぎ、訴えを起こす。
訴えるって言えば謝罪の言葉や慰謝料が来ると思ってるの?
くだらない」
「く、くだらないとは何よ!」
私がこんな性格だからか、こういうことはよくある。
なんでもかんでも医者のせいにされてたらそれこそ医者が居なくなる。
ただでさえ外科医の労働条件は過酷を強いられているのに。