第15章 感情で動く、愚かな医者
「水原先生、こちらもお願いします」
私や神崎が手が離せない状態にあると悟った看護師が、水原に言った。
「大木四郎さん57歳男性……頸部損傷です」
何か言葉を飲み込んだような言い方。
「えぇ…」
その言い方が気になり、チラリと横目で様子を伺う。
「…なるほどね」
傷口からすると恐らく犯人。
自分で自分の頸部を切りつけ、自殺を図ったのだろう。
普通に見れば看護師の方は助かる見込みはゼロに近く、この男の方を優先させる。
果たして水原はどちらを優先させるのか。
とにかく私も今手を離す訳にはいかない。
ここは自分で判断させるしかないか。
「水原先生、どちらから処置なさいますか?」
「えっと…」
判断に迷っている。
客観的な状況を見れている今はまだなんとか判断力があるだろう。
誰かが犯人だとでも言わない限りは問題ない。
「男の方をお願いします‼︎」
聞き覚えのない低くて太い男の声が響いた。