第1章 神の手と称される者
「挿管ってなんですか?」
【挿管】
気管挿管の略。
気管に口や鼻から喉頭を経由して気管内チューブの挿入を行う気管気道確保方法。
「あちゃー……言っちゃった」
「何かまずかったですか?」
「ううん、こっちの話。気にしないで」
……知らない?
「君、ERで経験させて貰えなかった?
基本中の基本なんだけど」
自分が認めた相手以外は例え誰であろうと名前を呼ばない神那。
経験させて貰えない程下っ端だったのか。
普通に考えてERに居て挿管を知らない医者なんて皆無だろう。
「いえ、そうじゃなくて。俺ER経験ないんですよ」
「……は?」
ない……?
フライトドクターを志望するのにER未経験なんて舐めてる。
救命医ですら根を上げる過酷さなのに。
未経験者が耐えられる訳がない。
「……君、専門は?」
「内科です」
「……やってらんない」
内科医が救命?フライトドクター?
冗談じゃない。
「救命を馬鹿にするのもいい加減にして。
テレビの影響でなりたいだけなら今すぐ荷物纏めて出て行って」
「馬鹿になんてしてなっ……」
「ICUの様子見て来る」
空になった紙コップを乱暴にゴミ箱に捨て、談話室をあとにする。
【ICU】
集中治療室のこと。
「はーい、行ってらっしゃい」