第12章 実力社会
「は、はい。
真剣にデートをしたいんじゃないかなーっと」
初めて見る神那の表情にドキリとした。
「私と出かけたところで藤代になんの利益があるっていうの?」
むしろ損するだけだと思うが。
「利益とかそういうのじゃないんですよ。
人の心って」
「心…」
何かを考えるように下を向く途中で、ふと時計が目に入った。
「オペに遅れる。
話はまたあとで聞くから」
神那にしては珍しく、興味を惹かれたような言い方だった。
「はいっ」
オペ室へ急ぎ、オペ着に着替え念入りに手を洗う。
専用のブラシで手全体だけでなく指の間や爪の中まで丁寧に時間をかけて洗っていく。
「随分と念入りにやるんですね、このブラシ結構痛いです」
「術中に細菌でも混入したら問題だから。
機能を考慮するとどうしても毛先が固くなる。
そんなこといちいち気にしてても仕方ないでしょ」
「頭では分かってますけど、実際にやるとなると大変ですね。
毎回毎回同じように念入りにすると考えるだけで気が滅入ってしまいそうですよ」
「そう」