第8章 助かる、助からない
玉突き事故の翌日。
ステーションにはいつになくどんよりとした空気が漂っていた。
神崎はイスの背もたれに寄りかかり、藤代は机に伏せっている。
フェローは書類を書きながら溜め息ばかり。
皆昨日の疲れが残っているようだ。
「だらしない」
そんな中神那だけは通常通りの業務を卒なくこなしていた。
テキパキとカルテ整理を行い、出動で溜まった書類を片付けていく。
「そんなこと言ったってしょうがないでしょ?神那ちゃん。
あんな動き回ったの久しぶりなんだから。
それに僕結構歳なの、知ってるでしょ?
体力だって限界があるの」
実際昨日の出動は普段の倍以上の体力を要した。
広い現場、大勢の患者。
流石に私も疲れが溜まっているのは事実。
だからといって業務を怠るようではダメだ。
それこそ本末転倒になる。
「ならヘリ引退する?楽になると思うよ」
「まさか!
冗談言わないでよ、神那ちゃん」
バッと姿勢を正す神崎。
「でも復帰戦でいきなり大きな現場やったし、俺もキツイねん。
身体バキバキやわ……。
ていうより昨日いつから純さん来たんです?
俺全然気づかへんかったもん。
テント入ってホンマ驚いたもん」
伏せった状態から目だけを隣の神崎に向ける藤代。
その表情にはいつもの笑顔はない。
「んー、いつだったかな。
まぁ、ちょうど神那ちゃんしか居なかった時だからね。
気づかないのも無理はないよ」
「あない純さんの背中見て安心したん、久しぶりやわ!」
「大袈裟だよ、っていつも安心してなかったの」
「冗談ですやん」