第10章 楽園の果実
東京都内の豪邸――帝都ネットワーク建設会長、泉宮寺豊久の自宅。敷地内を行き来するのはドローンばかりで、驚くほど人の気配がない。暖炉が燃える広間に、主である泉宮寺とその客人――槙島聖護と常守綾がいる。泉宮寺は飽きもせず猟銃を整備している。
「最も狡猾で、いくら狩り殺しても絶滅の心配がない動物はなんだと思う?」
「人間でしょう。」
「簡単過ぎたな。」
あっさりと答えた槙島に、泉宮寺は笑う。
綾はそんな二人を少し離れた場所から見ていた。
「あなたは、合法的に野生動物を殺したことがある最後の世代です。」
槙島は泉宮寺に敬意を払っていた。
「今はもう、普通の狩猟は許可が降りない。――だからこそ、槙島くんには感謝しているんだよ。」
「次はハンドローディングですか?」
「今、この国で実弾を手に入れるのは大変な手間だからね。リスクが高すぎる。私は完全に非合法化される寸前に装備を買いだめしておいたが、だからと言って無駄遣いしていいわけではない。シェルもなるべく回収し、再利用しているよ。――その前に、ちょっと一服しようか。」
作業デスクの引き出しを開ける泉宮寺。そこには、真っ白いパイプはずらりと並び、小さな箱には刻みタバコが用意してある。泉宮寺はパイプに刻みタバコを詰めて、横方向に火が出る専用のガスライターで点火する。
「パイプタバコとは趣味が良い。象牙――、ではありませんね。」
「人骨だよ。まだ見せた事は無かったかな。」
その言葉に、綾が僅かに顔を顰める。
容易く別れを告げた唇が、焼ける
「ほう。いつも獲物の一部を持ち帰るのは知っていましたが。」
「大腿骨か上腕骨がパイプに加工しやすい。このパイプは、マウスピース以外は王陵璃華子の骨だよ。」
「所謂トロフィー。」
「そう。こうして持ち帰ったトロフィーを触っていると、獲物を仕留めた瞬間を思い出す。心が若さを取り戻すんだよ。恐怖に震え上がる獲物達の魂が、私に活力を与えてくれる。」
嫌そうな顔をした綾を宥めるように、槙島は彼女を抱き寄せれば膝の上に乗せる。
「綾。綺麗な顔が台無しだ。」
「――肉体の老いは克服した。後は心ですか?」
どこか嘲笑うように言った綾に、泉宮寺は特に気分を害した様子も無く頷く。