第7章 【春風日和】塔矢アキラ
だから私はただこうやって、時折訪れる穏やかな時間に、あなたの側で笑ってお茶を淹れ続ける。
少しでもあなたの心を癒してあげられたら・・・
そう、さっきから穏やかに吹き込んでくる、この柔らかい春の風のように・・・
囲碁の神様はアキラさんに、誰よりも努力を惜しまない才能と、限りなく囲碁を愛する才能を与えた。
私には何を与えてくれたのかな・・・?
アキラさんの癒やしになれる才能なら嬉しいな・・・
春風に揺れる髪を耳にかけながら、そっと心の中でそう願った。
「・・・お茶、変わったね。」
パチン、パチン、定期的に鳴り響く碁石を打つ音が止み、ふうっ・・・っとあなたが息をつく。
「分かります・・・?進藤さんのお土産なんです、静岡でお仕事だったって・・・」
「進藤が・・・?珍しいな・・・」
意外そうな顔をするあなたの言葉に、オレは別にいいって言ったのにさ、あかりのやつが・・・、そう少し頬を染めながら、面倒そうに頭をかいた進藤さんを思い出してクスクス笑う。
「今回はあかりさんもご一緒だったみたいですよ・・・?」
「ああ、それでか・・・」
庭に向いていた視線を戻して微笑むと、美味しい・・・、そうあなたはそのお茶をもうひとくち口に含み、それから盤上に舞い降りた薄紅の花びらをそっと摘まんで頬を緩める。
すっと立ち上がり、無くなりかけた湯飲みにお茶を継ぎ足すと、ハート型ですね、そうその花びらに視線を向けて目を細める。
そんな私に優しく微笑んだあなたは、そっとそれを差し出してくれた。