第7章 【春風日和】塔矢アキラ
「璃音、一緒に打たないか・・・?」
「え・・・?でも、私の棋力じゃアキラさんの練習の邪魔にしか・・・」
そう戸惑う私に、久しぶりに璃音と打ちたいんだ、なんてあなたは盤上の石を片付けながら優しく微笑む。
そうですか・・・?、そう向かい合って座ると一緒に碁石を集め、それから置き石を並べ始める。
「25子、置いちゃいますよ・・・?」
「何子でも構わないよ、ちゃんと碁にするから。」
そんなあなたの言葉に苦笑いしながら、よろしくお願いします、そう頭を下げて、それからパチンと石を打ちはじめる。
確かにアキラさんと碁を打つのは久し振りだな・・・
あなたの力強い音と、それより弱い私の音が交互に奏でるそのリズムに、懐かしく暖かいものが胸にこみ上げた。
璃音、ふとあなたの手が止まりそっと私の名前を呼ぶ。
はい?、そう盤上に視線を向けたまま私は答える。
「・・・いつもありがとう。」
思いがけないその言葉に目を見開いて顔を上げると、あなたはとても穏やかな顔で微笑んでいた。
「私は何もしてませんよ・・・?」
「何もしないから・・・何も言わずただボクの側にいてくれるから・・・」
そんなキミにいつも救われている・・・、そうしっかりと掛けられたあなたの優しい言葉に、私も穏やかに微笑み返す。
「やっぱり璃音の石を打つ音は心地良いな・・・」
滲んだ涙を指で拭うと、柔らかい春の風が私たちを優しく包み込む。
手の中のハート型の花びらをそっと握りしめた。
【春風日和】塔矢アキラ