第1章 【冷たい手日和】幸村精市
「・・・精市、まだかな・・・?」
彼が来るはずの駅を眺めながらそっと呟く。
1月の冷たい空気が私の身体に突き刺さり、ギュッと身体を縮こませる。
早くっ・・・早くっ・・・そう唱えながら手をこすりあわせ空を見上げる。
私と彼氏の精市は、つき合っているとはいえ別々の学校で、お互いなんだかんだと忙しく、なかなか思うように会えなくて。
だから今日は久しぶりに2人ともなんの予定もない放課後で、やっと制服デートができる嬉しさに、学校が終わるとすぐに、とるものもとらず飛び出した。
2人の学校のちょうど中間地点にある駅前の、大きなシンボルツリーの木の下は待ち合わせ場所にぴったりで、その一番目立つ場所を陣取って、ソワソワしながら大好きな彼を待つ。
「まだかな・・・遅いな・・・」
そっと腕時計の時間を確認してそう呟く。
待ち合わせの時間を十数分過ぎても現れない彼に、ちょっと頬を膨らませながら、高鳴る胸をギュッとおさえる。
「待った?」
「ううん、今来たところ。」
彼の声ではない「待った?」に思わず反応してしまい、隣の少女の「今来たところ」にこっそり肩を落とす。
嘘、ずーっと待ってたじゃない・・・
パッと笑顔になって目を輝かせた見知らぬ彼女の嘘に、そっとため息を落としながらこっそり羨ましく思う。
電車が到着する度に、ドキドキと胸を高鳴らせては、結局、現れない彼に肩を落として、またため息をつく。
精市のバカ、早く来なさいよね・・・そう頬を膨らませて呟くと、ちょっとだけ涙がにじむ。
すっかり冷たくなった手に、はーっと息を吹きかけると、その吐息が白く染まった。