第1章 【冷たい手日和】幸村精市
校門をでて急いで学校の最寄り駅へ向かうと、改札を抜けて自宅とは反対方向へむかう電車へ飛び乗る。
久々のデートだというのに、あのバカな子達のせいで、これでは完全に遅刻だな・・・そう下り口に寄りかかり、窓の景色を眺めながら、ふーっとため息を落とす。
おそらくきっと今頃は、2人からくだらない理由をきいた柳が、赤也には雑煮についてその発祥からみっちりと、弦一郎には空気を読むということの必要性を、それぞれ徹底的にたたき込んでくれているに違いない。
・・・まあ、両方、無駄な努力になるのは分かり切っているけどね。
ふふ、あの2人にはあとでもう一度、俺直々にお仕置きする必要がありそうだね、なんて思いながら、俺が怒っていることに気がついた時の2人の血の気が引ひいた顔を思い出す。
そしてその後に目に浮かんでくるのは、きっととっくに来て寒い中待っているであろう彼女の姿。
凍えていないだろうか?不安になっていないだろうか?
少し気が強くて意地っ張りの璃音の事だから、きっと表面上は不機嫌な顔をしていても、心の中では泣きそうになっているに違いない。
そうわかっていて、たった一言、遅れると連絡してあげない俺もどうかと思うけど、待ったかい?そう言った時の彼女のちょっと怒った顔が楽しみで、何となく連絡せずにいる。
ホームにつくと真っ先に電車を降りて、寒い中待っているはずの璃音の元へと急ぐ。
改札を抜けてすぐに目に留まったのは、駅前広場のシンボルツリーの前でため息を落とす彼女の姿。
寒さで鼻の頭と頬を少し赤くして、寂しそうに涙をにじませながら、凍える指先にはーっと白い吐息を吹きかける、そんな璃音の仕草が愛しくて、気がつけば柄にもなく彼女の元へと駆け寄っていた。