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キミ日和

第6章 【蕾が開く頃日和】幸村精市




「ハァ、ハァ・・・せ、精市!お誕生日、おめでとう!!」


息を切らして差し出した私の鉢植えを、嬉しそうに受け取った精市の笑顔に、罪悪感で少し胸が痛んだ。


花壇まで全速力で駆けつけた私は、その辺に転がっていたプランターを失敬すると、適当な白と淡いピンクのビオラを一株選んで、それに植え替えた。


つまり、花も鉢も土も、全部盗品・・・もとい、借り物なのだ。


周りの女の子達の、チッ!って視線をもろともせず、堂々と盗品・・・もとい、借り物のプレゼントを渡せる私ってどんだけ神経図太いんだろう・・・?


そんな自分に苦笑いをしてしまう。


「へぇ、璃音から花を貰えるなんて意外だな・・・ビオラだね・・・」


そう言ってその鉢植えを目を細めてみていた精市の目がほんの少しだけ大きく開かれた気がして、それからまた私に優しい笑顔を向けられる。


そんな精市の笑顔が私の罪悪感をチクチクと刺激して、思わずそろーっと視線をそらし、それじゃ、私、もう行くから、そう言って慌てて背を向けた。


「ちょっと待ってくれるかい?」


立ち去る間際、そう言って精市は私の手をとるから、ギクッと大きく肩が跳ねる。
な、なに?私、急いでいるんだけど、そう引きつった笑顔で答えると、ちょっと2人きりになれるところに行こうか?そう言って精市は笑った。


ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ・・・この展開はヒジョーにヤバイ!


私の手を掴んだまま黙々と歩く精市のあとに続きながら、その背中から感じる恐ろしげなオーラに冷や汗をかく。


無言の精市に連れて行かれたのは男子テニス部の部室。
つくなり精市はガチャリと鍵をかけたから、その音にビクッと大きく肩が震える。


こ、これは・・・絶対、殺される!!


「このビオラ、以前、どこかで見たことがある気がするんだよね・・・」
「は、花なんて大抵みんな一緒よね!」
「そう・・・だったら、先週、美化委員で俺が花壇に植えたものに酷似しているのは、単なる偶然なのかな?」
「へー・・・そ、そんなことってあるのねー!スゴーイ!」


土、付いてるね、そう言って繋がれたままの私の爪の先をじーっと笑顔で見ている精市のその様子に、絶対バレてる・・・そう思うと、無理に作った笑顔が冷や汗でどんどん崩れて行った。

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