第6章 【蕾が開く頃日和】幸村精市
・・・ヤバい、忘れてた・・・
朝から教室は沢山の女生徒達で溢れかえっていた。
それですら気がつかなかったのだから、私は本当にすっかり忘れていたのだと思う。
3月5日
今日は私の彼氏である、幸村精市氏の誕生日であることを・・・
その事実に気がついたのは、なんだー?と教室に群がる女の子の一人が放った、幸村くん、お誕生日おめでとう!の言葉を聞いたとき。
全身の血が一気にサーッと足元から身体の外に抜けていってしまったのかと思った。
ああ、血の気が引くってこの事なんだって・・・
「おはよう、璃音、どうしたの?そんな所で、早く入っておいでよ。」
「・・・そ、そうなんだけどね、ちょっと忘れ物・・・じゃなくて、し、質問・・・?そう、質問!今からちょっと柳のところに行ってくるからっ!」
そう女の子達の中心からフフッと笑顔を見せる精市のその様子に、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ・・・そう心の中で何度も繰り返し、柳の教室まで一目散に駆け出した。
「や、柳!ちょっと一大事なの!」
助けて!そう教室に駆け込んだ私を、チラッと見た・・・かどうか糸目で分からないけれど、多分見た柳は、やはり来たか、そう呟いた。
「来たか、じゃないのよ!一大事なんだってば!実は私・・・」
「『精市の誕生日を忘れていたの!』・・・とおまえは言う。」
そうはっきり言い当てられて、相変わらず嫌なやつね、そう思いながらフーッと大きなため息をつく。
「分かってるなら何とかしてよ!」
「そうだな・・・今すぐ手に入るもので精市が一番喜びそうなものは花だな、花壇にあるビオラ辺りが適当だろう・・・
・・・と言うのは冗談で、アレは先日、精市が美化委員で植えたものだから、間違っても掘り起こすな・・・聞いているか・・・?小宮山・・・?」
「・・・柳くん、小宮山さんなら話半分で飛び出していったわよ?」
そう、私はあんまり慌てていたものだから、『適当だろう』までしか聞かず、そのまま、ありがとう!と花壇まで一目散に走り出したのだ。
「これは一騒動ありそうだ、だが、精市にとっては好機かもしれんな・・・」
ふむ、実に興味深い、そう顔色一つ変えずに柳が呟いたのも、走りだした私は当然知らなかった。