第5章 【溶けかけの雪だるま日和】夏目貴志
・・・ここは・・・?
フワフワする・・・温かい・・・
夢・・・?
夢を見ているみたい・・・
貴志くん・・・どこ・・・?
どこにいるの・・・?
貴志くん・・・
ふと感じる柔らかい風・・・私の頬を優しくなでる。
じっと風のながれていく先を見つめる。
あっち・・・?
あっちに行けばいいの・・・?
その風の流れに沿って歩き出す。
ゆっくりと・・・一歩ずつ・・・
その風はほんのり椿の花の香りがした―――
目を開けるとそこに見えたのは、見慣れない白い天井。
それから鼻につく薬品の匂いに、ピッピッと響く無機質な機械音。
「璃音!!」
お母さん?声のする方に視線を向けると、そこには涙を流す母の姿。
「どうしたの・・・?ここは・・・?」
「病院よ、あなた、ずっと意識不明だったのよ?」
意識不明・・・?
ああ、あの時、凄い力に吹き飛ばされて・・・
フラフラする頭を抑えながら、身体を起こす。
駄目よ、動いたら、今、先生を呼ぶから、そう言って母が私の身体をもう一度ベッドに寝かせると、ナースコールを押して看護師さんを呼んだ。
程なくしてバタバタと先生や沢山の看護師さんが部屋に入ってくる。
一通りの検査や先生からの問診に答え、そのうち、会社から父も駆けつけてきた。
「本当に良かったわね、ずっと意識不明だったわりにどこにも異常は見つからないって、何日かしたら退院できるそうよ。」
そう嬉しそうにする母に、ずっと気がかりだった疑問をぶつけてみる。
「お母さん、貴志くんは大丈夫・・・?」
途端、母の顔つきが変わり、嫌な予感が胸をよぎる。
貴志くんは!?もう一度声を張り上げ、今度は父に視線を送ると、目があった父は気まずそうに目を伏せた。
「璃音、貴志くんはもう別の親戚のお家に引き取られて行ったよ・・・」
その父の言葉に心臓が握りつぶされたかと思うほど痛み、目からはとめどなく涙が溢れた。