第5章 【溶けかけの雪だるま日和】夏目貴志
ある日、いつものように椿神社で貴志くんと話をしていた。
この神社は雪が溶ける頃にはとても椿がきれいなんだよって教えてあげたら、貴志くんもそれはきれいだろうなって目を細めた。
一緒に見ようね、そうまた指切りして約束すると、そうだなって言った貴志くんの寂しそうな表情に目を奪われた。
貴志くんは今、何を感じ、何を思っているのだろう・・・
幼い頃から親戚中を転々としてきたという彼・・・
椿神様、どうかお願いです、貴志くんをずっと我が家にいさせてください・・・
貴志くんとずっと一緒に笑っていたいんです・・・
そっと貴志くんに見つからないように手を合わせた。
貴志くんへの募る想いは自分の中に留めておくには難しいほど大きくなっていって、とうとう公園でブランコから落ちたのを助けて貰ったときに告げてしまった。
家族として同じ家で暮らしているのだから、日々膨らんでいくこの想いを告げてはいけないと思っていたけれど、彼の鼓動と私の鼓動が同じ速さで重なり合い、そして私の背中に回された彼の腕の強さに我慢ができなかった。
彼の戸惑う顔に不安を覚えるも、彼も同じ気持ちだとはっきり確信していた。
だから本当の気持ちを話す約束だよ?そう彼の返事を促した。
そして貴志くんが徐に口を開いたその瞬間、突然吹き抜けた強い風とともに、
貴志くんの身体が吹っ飛んだ―――
どう言うこと・・・?
その信じられない光景をただ呆然と眺めた。
突風で何メートルも人の身体が吹き飛ぶ?
来ちゃダメだ、逃げろ、そう苦しそうに言う貴志くんを置いて逃げることなんて出来なくて、何が起きているのかわからず怖かったけど、足がすくんで身体の芯から震えていたけれど、それでも彼に駆け寄った。
どうしたの・・・?そう彼の肩に触れたその瞬間、見えない何か強い力に弾き飛ばされて、
今度は私の身体が宙を舞っていた―――