第1章 【冷たい手日和】幸村精市
「待てぃ!赤也、貴様というやつは、何度言えばわかるのだ!」
「真田副部長こそ、もういい加減にして下さいよ~。」
今日の放課後は別の学校に通う彼女の小宮山璃音と、久しぶりにゆっくり会おうと言うことになり、授業が終わると真っ先に昇降口へとむかう。
そんな俺の耳に遠くから聞こえてきた聞き覚えが有りすぎる怒鳴り声に、思わず首をすくめる。
これは面倒なことになりそうだな、なんて思いながら見つからないようにコッソリ靴を履き替えていると、空気の読めない弦一郎が、目ざとくオレを発見し、それから大声で呼び止める。
「おお、幸村!ちょうど良いところに!お前もこっちに来て赤也に何とか言ってくれぬか!」
ふーっとため息をついてチラッと視線をむけると、いったいこれは何の騒ぎ?そう何時もより少し低い声で問いかける。
「よくぞ聞いてくれた、赤也のやつが雑煮の雑は動物の象だと言って聞かんのだ!」
「だって象の鼻のように餅がニューッと伸びるから象煮って言うんっすよね!?俺、ガキの頃に親父にそう教わったんで間違いないっす!!」
「この戯けが!それでは象肉入り汁になってしまうではないかっ!」
久しぶりに璃音に会うために、こんなに急いでいる俺をわざわざ呼び止めておいて、そんなくだらない理由だったとは、全くしょうがない子達だね、そう思わずふふっと笑顔になる。
「もしもし、柳?悪いけど今すぐ昇降口に来てくれるかい?」
そう言って柳を呼び出すと、程なくして現れた彼に、後はお願いするよ?と笑顔をむけて、それから弦一郎と赤也には、柳にゆっくり教えてもらうといいよ、そう別の笑顔をむける。
その途端、サーッと血の気が引いて青い顔をした2人に背をむけると、それから急いで学校を後にした。