第5章 【溶けかけの雪だるま日和】夏目貴志
「実は今度、お父さんの遠縁にあたる子を引き取らないといけなくなったんだ・・・」
ある日、夕飯の席で突然父がそんなことを言い出した。
まさに寝耳に水のその話に母は凄く動揺し、私はというと・・・うーん、よく分からなかった。
「冗談じゃありませんよ!なんでそんな遠縁の子を!」
「そんなこと言ったってお前、その子は幼い頃に両親に先立たれてから親戚中で順番に面倒見ているんだ、うちだけ知らん顔は出来ないだろう!」
「だからって家には璃音がいるんですよ?同い年の娘なんです!もしその子が璃音に何かしたらどうするんですか!!」
「そんなの、お前の考えすぎだ!!」
その父の爆弾発言以来、そんなやりとりが毎日繰り広げられていた。
聞くとその夏目貴志くんはちょっと変わった子らしく、情緒不安定で虚言癖があるのだとか・・・
確かにそれが本当ならちょっと怖いなって思った。
でも幼い頃から親戚中をたらい回しにされているなんて、やっぱり可哀想だなって気持ちも大きかった。
さんざん家族で揉めに揉めた結果、いよいよ貴志くんを引き取る日がやってきた。
「夏目貴志です、よろしくお願いします。」
父に連れられてそう挨拶した少年は、同級生の男子達よりずっと華奢で、淡い色の髪と不思議に光る瞳が印象的なキレイな男の子だった。
貴志くんは噂通り、時々何もないところを見ては、突然、青い顔をして走り出したり、急にいなくなって周りに心配をかけたりして、父も母も正直戸惑いを隠せない様子だった。
特に母は最初から貴志くんを引き取ることに大反対だったから、彼への風当たりは日に日に強くなっていって、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
学校でもそんな夏目くんはういていて、ういているというより、最初から誰とも関わらないようにしているみたいで、どう接したらいいのか、ずっと戸惑いながら様子を見ていた。