第5章 【溶けかけの雪だるま日和】夏目貴志
「あれー・・・おかしいなぁ・・・、お母さん、私の髪留め知らない?赤い大きな石と青い小さな石が散りばめられてるやつ!」
「知りませんよ?ちゃんと片づけておかなかったの?」
「いつもの場所に置いたと思ったんだけどなぁ・・・」
そんなある日、私の髪留めが無くなって、家中を探したけれど見つからなくて、あーあ、アレ、お気に入りだったのにって諦めかけた事があった。
「・・・洗面台の側、タオルの間に紛れ込んでいるって。」
そうすれ違いざまに貴志くんに言われて、え?って慌てて確認してみると、確かにそこには髪留めがあって、あ、そうだ、私、洗面台に置きっぱなしにしちゃったんだって思い出して、貴志くん、ありがとう!ってお礼を言った。
そっと振り返った彼の控え目な笑顔にドキッとしながら、あれ?でもどうして「いるって」なんて人から聞いたような言い方なんだろう?ってちょっと不思議に思った。
「璃音さん、今日は午後から雪が降るから、傘、持った方がいいよ。」
別のある日、登校しようと玄関を出たところで、空を見上げる貴志くんに呼び止められた。
彼に呼び止められるなんて珍しくて驚くと同時に、雪?って不思議に思って首を傾げた。
「天気予報、今日は1日晴れって言ってたよ?ほら、空だってこんなに快晴だし・・・」
するともう一度空に目を向けた貴志くんは、降るよ、絶対、そうしっかりと言い切ったから、半信半疑で折りたたみ傘をカバンに入れた。
午後から本当に天気は一変して雪になった。
折りたたみ傘をさしながら朝の貴志くんの空を眺める目を思い出した。
貴志くんのあの不思議な瞳には、あの時、いったい何が見えていたんだろう・・・?
ふと顔を上げると、雪にまみれながら歩く人達の中に、私と同じように傘を差している男の子を発見した。
「貴志くん!どうせ同じ家に帰るんだから一緒に帰ろうよ?」
小走りになって彼に追いつき、そう声かけると、振り返った貴志くんはまた控えめな笑顔を見せてくれた。