第5章 【溶けかけの雪だるま日和】夏目貴志
「ごめんね、いつもお母さんが意地悪で・・・」
その日の放課後は公園に寄り道をしていた。
ブランコに璃音さんと2人並んで座ると、彼女がそう申し訳なさそうに謝罪する。
そんなことないよ、そう言って笑顔を向けると、ぎこちない笑顔を見せた璃音さんは、それからよっと地面を後ろに蹴って、勢いよくブランコを漕ぎ始める。
「貴志くんも一緒に漕ごうよ?気持ちいいよ。」
「・・・いや、俺は遠慮しとくよ、寒いし。」
全力でブランコを漕ぐ中学生らしからぬその乗り方に、璃音さんが俺に対するおばさんの態度で心を痛めているのかと思うと、申し訳なくてズキンと胸が痛んだ。
真冬の冷たい空気がキンと身体を突き刺す。
無理に笑う璃音さんは、白い息を吐きながら風をきって空に飛び出し、また後ろに戻るを繰り替えす。
一瞬でも目を離したら、そのまま空の中に溶けて消えてしまいそうで、もう二度と見つからなそうで、見失わないように必死にその姿を目に焼き付ける。
「な、なに?貴志くん、どうしたの?」
そう俺の視線に気がついた彼女が、こちらに視線を向けるから、恥ずかしくて視線を少し落とすと、彼女の制服のスカートが風になびいているのに気がついて、慌てて更に目を反らす。
そんな俺の行動で自分のスカートの状況に気がついた璃音さんは、や、やだ!貴志くん、見ないでよっ!そう言って片手を離してそれをおさえた。
でも勢いよく漕いでいるブランコで片手を離したのだから、璃音さんはバランスを崩してキャッと悲鳴をあけると、そのブランコから飛ばされ宙を舞う。
「危ないっ!!」
夢中で彼女の前に飛び出すと、かなりの衝撃を感じて尻餅を付く。
身体にズシリとした重さを感じて、そーっと目を開けるとそのぬくもりを確かめる。
良かった・・・ちゃんと受け止めることができた・・・
腕の中には震える身体を縮こめて、必死に俺の身体にしがみつく璃音さんがいた。