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キミ日和

第5章 【溶けかけの雪だるま日和】夏目貴志




「・・・あ、ありがとう・・・」
「ああ・・・」


腕の中で小さく震える彼女の、鼻をくすぐる甘い香りに胸を焦がす。
怪我してない・・・?そう恐る恐る声をかけると、頷いて顔を上げた彼女のその距離に慌てて目を泳がせる。


ドクンドクンと大きく脈を打つ心臓の音は、俺の自信のものなのか、彼女のものなのか、それとも2人のものなのか・・・そんなこともわからない距離に全身が熱を帯びる。


行き場のない両手を思わずその背中に回すと、そっと彼女は俺の肩にもたれかかった。


降り出した粉雪が2人の髪を肩を、白く染めていく。


このまま時が止まればいい、そんな使い古された感情を、まさか自分も感じられる日が来るとは思ってもみなかった。


ずっとこのまま・・・彼女を抱きしめる腕に力をこめると、貴志くん、好き・・・そう彼女は小さく呟いた。


心臓がドクンと大きく跳ね上がる。
2人、同じ想いを感じていたことに例えようのない喜びを感じ、それから戸惑いを覚える。


俺の顔をじっと見つめる璃音さんの瞳は俺の返事を待っていて、でも俺なんかが彼女の想いに応えて良いはずもなくて、なんて言っていいか言葉を詰まらせる。


「・・・貴志くん、ちゃんと本当の気持ちを話すって約束だよ・・・?」


その璃音さんの言葉に目を見開いた。
あの日、璃音さんにだけは本当の気持ちを話すと指切りしたあの約束・・・


俺の本当の気持ち・・・
璃音さんとずっと一緒にいたいと願うこの想い・・・


言葉にしてもいいのか・・・?
違う、本当は言葉にしたいんだ・・・そっと勇気を出して口を開く。


「油断したな、人の子よ!!」


突然、横から受けた強い衝撃に吹き飛ばされる。
身体が宙を舞い地面に叩きつけられる。
喉元を締め付けられ息ができず、必死にもがきながら目を開けて見たのは、あの日、俺を追いかけ食おうとしたあの物の怪の姿・・・


「・・・おまえは・・・あの時の・・・」
「待っていた、おまえの身体を纏うあの聖なる気が消えるこの時を!!」


しまった、ここ数日、あの神社へ足を踏み入れていなかった・・・
そう後悔しながらその物の怪に押さえつけられている首の手をどけようと必死にもがいた。

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