第5章 【溶けかけの雪だるま日和】夏目貴志
「貴志くん、育ち盛りなんだし、おかわりしたら?私と同じ量じゃ足りないでしょ?」
「・・・あら、そうよね、男の子なんだし、うちの璃音よりずっと沢山食べるわよね。ごめんなさい、気が利かなくて。」
そう手を差し出すおばさんに、いえ、大丈夫です、御馳走様でした、そう笑顔を向けて箸をおく。
本当はもう少し食べたい、それでもその一言を言えない雰囲気を敏感に感じて部屋に戻る。
けれどやはり足らなくて、布団に入ってもお腹が減ってなかなか寝付けない。
我慢しろ、大丈夫だ、忘れた振りをして夕飯を食べさせてくれない家だってあったじゃないか、そう何度も心の中で繰り返す。
コンコン
ドアをノックする音に驚いて返事をすると、ガチャッとドアを開けて、そーっと璃音さんが顔をのぞかせる。
「璃音さん!?こんな時間にどうしたの?」
そう驚いて思わず声上げると、璃音さんはしーっと人差し指を口に当てて廊下の先をしきりに気にしたと思ったら、お母さんに勉強するから夜食作ってって頼んじゃった♪そう言って彼女はサンドイッチを俺の前に差し出した。
◆ ◇ ◆
「貴志くん、まだ誰の足跡もついてないよ!」
そう放課後、一緒に神社まで来ると璃音さんが目を輝かせて境内へと走り出す。
「ねぇ、この雪を踏むときのギシッギシッて音、気持ちいいよね!」
そう言ってその辺をゆっくり踏みしめる彼女を微笑ましく眺めると、なんとなく雪玉を2つ作って重ね合わせ、手のひらサイズの小さな雪だるまを作った。
「あ、可愛い雪だるま♪」
そう璃音さんが笑顔で走り寄り、それから彼女も更に一回り小さな雪だるまを作ると、俺が作ったものの隣に並べて置いた。
「そっちが貴志くんでこっちが私ね♪」
そう言って嬉しそうに彼女が笑うから、こんな事がそんなに嬉しいものなのか、そう思って並んだ雪だるまを眺める。
すると2つの雪だるまが傾いてそっと寄り添いあったから、あ!って2人で声を上げて、それからお互い目があうと、恥ずかしくて慌てて目を反らした。