第5章 【溶けかけの雪だるま日和】夏目貴志
「どうして助けたか?そんなの助けてって言ってたからじゃない!」
境内に並んで座り、先ほど感じた疑問をぶつけると、そう璃音さんは普通のことのようにケロッと答える。
何から助けて欲しいのかは分からなかったけど、そう言ってクスクス笑う璃音さんに、思わず目を丸くする。
「どうしてそんなこと聞くの?」
「・・・だって気味悪いだろ?」
そう目を伏せて答えると、あー・・・とちょっと苦笑いした彼女は、でも貴志くんだから、そう言って抱えた膝に頬を寄せて俺の顔を覗き込む。
「みんなが言うような嘘つきじゃないこと、一緒に暮らしてればわかるもの、だから、助けてって言われたから助けたんだよ?」
そうふふっと柔らかく笑う璃音さんの笑顔に思わず目をそらしてしまう。
数秒後、そっと視線を戻すとまた彼女と目があって、そんな彼女はもう一度笑った。
ああ、璃音さんとこの空間は、よく波長が似ているんだ・・・
凛とした清々しさと、柔らかな暖かさが混在するこの空間。
物の怪も、悪しき心を持つ人間ですらも、不浄のものをいっさい寄せ付けない場所。
そんな場所だから純粋な彼女はここに惹きつけられる。
そしてそんな彼女だから俺も―――
初めて感じた感情に騒ぎ出す胸をそっとおさえた。
◆ ◇ ◆
「貴志くん!どうしてこんなに汚すのよ!毎日毎日、いい加減にしてくれる!?もう今日は洗濯しないからね!」
いつも物の怪から逃げ回り、毎日のように制服を泥だらけにする俺におばさんが怒りを露わにする。
・・・すみません、そう俯いて謝ると、ガタガタと後ろで激しい音がする。
驚いて振り返ると、そこには璃音さんが床に座り込み、イタタタタとお尻をさすっていた。
「あらあら、どうしたの?こんな何もないところで・・・」
「コケたー!うわっ、ごめんなさい、お母さん、持っていたお茶、こぼしちゃった・・・」
この服、お気に入りなの!シミにならないようにすぐに洗って?、そう両手を顔の前であわせて璃音さんはおばさんの顔をのぞき込む。
全く、仕方がないわね・・・そう言ってため息をついたおばさんは、ついでに貴志くんの制服も洗うわよ、そう言ってチラッと俺に視線をむけた。