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キミ日和

第5章 【溶けかけの雪だるま日和】夏目貴志




小さな頃から時々変な物をみた。
それは恐らく妖怪という物のたぐい。


ハァ、ハァ・・・


必死に人ごみの中を駆け抜ける。
すみません、ごめんなさい、そうぶつかっては迷惑そうな顔をする人々に謝りながら走りつづける。


「待てぇー、人の子の癖に私を見たな、食ってやる!」


すぐ後ろに迫ってくる恐ろしい声。
見たくて見ているわけじゃない、見なくて済むならそんな幸せなことはない。


「ふざけるな!食われてたまるかっ!」


そう叫びながら走り抜けると、人々がそんなオレを気味悪そうに眺めて眉をひそめる。
それから突然巻き起こった突風に、みんな驚いて身体を縮こませる。


「なんだ?今の風・・・?」
「それよりさっきの中学生、なんなのかしら・・・?」
「ほら、あの子よ、小宮山さんのお宅で今度引き取った子って。」
「ああ・・・あの子が・・・」


両親を早くに亡くした俺は親戚の家を転々として来た。
血のつながっていない、でも俺と関わりを持ってしまった人々の間で俺は暮らしてきた。


「あの子、また今日も変なこと言ったのよ?」
「あそこに誰かいるって誰もいないところ指さして、気味が悪いったらありゃしない・・・」


他の人には見えない物を見てしまう力を持っているせいでいつもひとりだった。
小さい頃はそれが辛くて、誰かに信じて貰いたくて、必死に訴えては余計に気味悪がられていた。


何時の頃からか諦めとも虚しさとも似た感情に支配され、誰にも理解されない自分が当たり前になっていて、それでいいんだ、そう思うようになっていた。


「食ってやる・・・食ってやるっ・・・!」


しまった!
人混みを避けて公道を外れ林の中に逃げ込んだせいで、雪に足を取られて転んでしまった。
慌てて立ち上がるも、すぐ後ろに迫ったその物の怪に捕まりそうになる。


「助けてくれ・・・誰かっ・・・誰かっ!!」


気が付くとそう必死に叫びながら、来るはずもない助けを求めて手を伸ばしていた。

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