第5章 【溶けかけの雪だるま日和】夏目貴志
舞い散る粉雪
深々と降り積もる
どこまでも
どこまでも
降り積もって
すべてを覆い尽くす
そしてそれが溶け始めて
椿の花が咲き始める頃
お互いの幸せを祈って
そっと空を仰いだ―――
【溶けかけの雪だるま日和】
「積もったなー・・・」
昨夜から降り続いた雪は辺り一面を銀世界へと変えて、朝日を受けながらキラキラと光り輝く。
「貴志くん、せっかく積もったんだから外で雪遊びでもして来たら?」
子供は子供らしくね♪、そう朝食の席で無邪気に笑う塔子さんに背中を押され、そうですね、と内心苦笑いしながら外へ出た。
「雪遊びって歳でもないんだけどな、ニャンコ先生?」
「全く、こっちはいい迷惑だ!猫はコタツで丸くなると言う歌を知らぬのか!」
そう雪にすっぽりと埋まり、まるでモグラのような跡をつけながら進むニャンコ先生を、微笑ましく眺める。
「何を笑っておる!私にとっては死活問題だぞ!」
ええい、お前もやってみろ!私の苦労を身を持って味わうがいい!そう先生がオレの頭に飛び乗り、その勢いで倒れ込んで雪に顔をうずめる。
何するんだ!この豚ネコ!そう先生を殴り飛ばすと、それが師匠に対する態度か!そう先生が後ろ足で雪をかける。
2人して雪まみれになって喧嘩しながら林を抜けると、そこはどこまでも広がる雪の原。
ほうっと思わず見惚れて、まだ誰も足跡を付けていないその場所をそっと踏みしめる。
ギシッ、ギシッと鈍い音を奏でるその何とも言えない感触に、懐かしく切ない思い出が蘇り胸を焦がす。
「ね・・・貴志くん、一緒に椿の花、見ようね・・・?」
雪玉を握り二つ重ね合わせる。
即席で作ったなんの飾り気もない小さな雪だるま。
「なんだ、この貧相な雪だるまは!どうせ作るのならこの私のプリチーなボディをモデルにでもしたらどうだ!」
「・・・いいんだよ、これで。」
あの子は元気にやっているだろうか・・・そっと懐かしんでその雪だるまを眺める。
なんだ、訳ありか?そう聞く先生に、ああ、昔、ちょっとね・・・そう呟いて空を仰いだ。