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キミ日和

第5章 【溶けかけの雪だるま日和】夏目貴志




「こっち!速くっ!!」


捕まったら食われる、そう恐怖と絶望の中、必死に助けを求めて伸ばした手は、そう声を上げた人物によってしっかりと握られていた。


「・・・キミは・・・」
「いいから速く!急いでるんでしょ?」


白く華奢なその手に引かれ走り続ける。
木々の隙間を縫い、岩を飛び越え、茂みをくぐって駆け抜けた先に訪れたのは、静寂と凛と張り詰めた空気。


「・・・ここは・・・神社・・・?どうして璃音さんが・・・?」


はぁ、はぁ、と乱れた息を整えながら、その白く華奢な手の持ち主に話しかけると、ここ、静かな場所でしょ?そう彼女は大きく息をしながら笑った。


璃音さん・・・彼女は俺が今、引き取られて生活をしている小宮山家の一人娘で、同じ中学に通っている同級生でもある。


なぜ彼女がここに・・・?
それになぜ俺を助けてくれたのか・・・?


まさか、見えるのか・・・?
彼女にもアレが・・・


「もう駄目じゃ、ここに入られては、あの身が清められてしまった・・・あの人の子には暫く近づけぬ・・・!」


そう物の怪は鳥居の向こうで悔しそうに俺を睨むと、右に左に数回飛び回ってから雪を巻き上げ空高くへと消えていった。


鳥居の向こうだけ巻き起こった突風に、あ、また・・・そう璃音さんは少し嬉しそうにふふっと笑う。


やはり見えているのか・・・?


「不思議でしょ?時々、この神社の中だけ風が吹かない時があるの。まるで神様に守られているみたいじゃない?」


私のお気に入りの場所、貴志くんにだけ特別に教えてあげるね、そう頬を緩ませる璃音さんに思わず目を奪われる。


神々しい空間にピンと張り詰めた冬の空気の中、そこだけ柔らかい春が訪れたかのような感覚に戸惑いを覚える。


それから、やはり見えるはずないか・・・そう少しだけがっかりして、こっそり肩を落とした。

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