第8章 お酒の味
朝食を食べ終え、家を出る時間になった。
「直人、そろそろ行くよ。」
「わかったー。シュリ、色々とありがとな。」
「いいえー。でもこれからは飲みすぎ注意だよ。」
「はーい。」
玄関で靴を履き、ドアを開けようとすると直人に肩を叩かれた。
振り返った瞬間、直人にキスをされた。
「行ってらっしゃい。」
これが所謂、行ってらっしゃいのキスというやつか。
少し照れくさかったが、頬が緩んだ。
「行ってきます。」
直人と部屋を出ると、同じタイミングで徹が部屋から出てきた。
徹は私達を見ると鼻で笑った。
「なんだお前ら、一晩一緒にいたの?」
気まずくて俯く私の肩を直人が抱き寄せた。
「おはよう羽山くん。俺達付き合うことになったんだ。だからもう、シュリにちょっかい出さないでね。」
あくまでも穏やかな口調で直人はそう言った。
徹は口角をつり上げた。
「付き合ったから何なんだよ。略奪って言葉知ってる?」
「そんなことさせないよ。」
直人は怖いくらいの笑顔で言い返した。
徹も表情を崩さない。
徹は私達に歩み寄ると、私の手を握って階段に向かって走り出した。
「テメェなんかに負けるかよバーカ。」
徹は顔だけ振り返り、直人に向かって舌を出した。
私も思わず振り返る。
直人は顔は笑っているが、怒っているのが伝わってきた。
直人と付き合えば、徹は諦めるだろうと心の何処かで思っていたが、甘かった。
前途多難とはまさにこの事だ…。