第8章 お酒の味
気分転換にお風呂に入り、テレビを見ていると、玄関のドアノブをガチャガチャと回す音がした。
誰かがドアを開けようとしている。
鍵は閉めているし、チェーンもかけている。
誰かが入ってくる事は不可能だが、なかなか居なくなる気配が無いので私はフライパンを構え、チェーンは外さずにドアを開けた。
「誰っ…て、え?直人?」
ドアノブを回していたのは直人だった。
チェーンを外すと、直人は私にもたれかかってきた。
自分より遥かに大きい直人を支えることは出来ず、そのまま後ろに倒れた。
「いてて…直人?どうしたの?」
「…もうマジ無理ッス…。」
「は?」
直人は目を瞑って赤い顔をしていた。
煙草とアルコールの臭いがする。
「直人…酔ってるの?」
「…へ?なんでシュリがいんの…?」
「いや、ここ私の部屋なんだけど…。」
「なに言ってんの?俺の部屋だよ…?」
何となく、察しはついた。
酔っ払った直人は、自分の部屋と私の部屋を間違えたのだ。
私は直人の体を叩いた。
「直人!立って!」
「…はーい…。」
なんとか立ち上がった直人を支えてベッドまで運び、座らせた。
直人はベッド倒れこんだ。
コップに水を注いで直人に持って行った。
「直人、お水!」
「…置いといて。今無理…。」
「まったくもう…。」
作業着を着ている辺り、会社の飲み会だったのだろう。