第19章 徹と涼
「あいつ…涼のことなんだけど。」
「涼がどうかしたの?」
まさか私の知らない所で何かあったのかと心配になり、徹の顔を覗き込んだ。
徹は天井を見つめながら話を続ける。
「あいつ…変な奴だな。」
「そうかな?」
「なんか知らねーけど、あいつの中で俺とあいつは友達ってことになってて…面と向かって君の友達!なんて言われたの初めてだよ。」
何故そういう流れになったのかは分からないが、涼なら言いそうな言葉だ。
徹は頭をガシガシと掻いた。
「めんどくせー奴。」
数ヶ月間だが、近くで徹を見てきたから分かる。
今の徹は、本当にめんどくさいと思っている訳ではなさそうだ。
何処と無く、嬉しそうにも見える。
もしかしたら、涼の子どもの様な無邪気さと素直な性格が徹の心を開いたのかもしれない。
「いいじゃん、友達で。」
「別に友達作りに長野まで来たんじゃねえんだけどな。」
「でも徹、嬉しそうだよ?」
そう言うと、徹は私に背中を向けて呟いた。
「今まで男友達なんていなかったから戸惑う。嫌じゃないけど。」
徹と涼。
二人は真逆のタイプだが、それが逆に良かったのかもしれない。
出逢った頃の徹は、まるで薔薇の様な人だった。
美しいのに棘が多すぎた。
私は、徹の棘が少しずつ無くなるのを感じていた。
「徹。」
「なに?」
徹は照れ臭いのか、こちらを向こうとしない。
その背中に、私はこう言葉をかけた。
「もしも私がいなくなっても、涼や、私の家族とずっと仲良くしてね。」
どうして私は、治療が上手くいっているのにこんな事を言うのだろう。
それでも、伝えたかった。
自意識過剰かもしれないが、もしも私が死んだら徹はまた、棘の多い薔薇に戻ってしまうような気がするから。
「…結婚、するんだろ。」
"結婚する"
それは、今の私達にとって唯一の希望の様な言葉だ。
「そうだよね。変なこと言ってごめんね。」
5年後…私は徹の隣で笑っていられるのだろうか。
どうしても不安な気持ちが拭えない。
すると、徹は起き上がって私を抱きしめた。
「お前は大丈夫だ。絶対に。」
徹の力強い言葉に、私は小さく頷いた。