第19章 徹と涼
それから毎日、徹はお見舞いに来てくれた。
「仕事見付かりそう?」
「んー…アルバイトの募集は結構あるんだけど、正社員はなかなか無いな。もう少し探して見付からなかったら、バイト掛け持ちするよ。」
「そっかー…。」
父親からの仕送りで生活には困っていないが、自分自身が父親に甘え続けるのが嫌だと徹は話した。
徹と話をしていると、懐かしい声がした。
「シュリー!」
明るい笑顔で病室に入って来たのは、幼馴染みの安達涼(アダチリョウ)だった。
「涼!?」
思いがけない人物の登場に私は驚いた。
涼は病室に入ると、私の手を握った。
「シュリのお母さんから、シュリが病気になって長野に帰ってきたって聞いて…大丈夫?」
「…おい、手離せ。」
徹が涼に冷たい視線を送った。
涼は徹を見ると首を傾げた。
「誰?」
「こいつの彼氏だ。」
涼はああ…と頷くと、私の手を話した。
「君が徹君?」
「涼、なんで徹のこと知ってるの?」
そう問いかけると、涼はクスクスと笑った。
「徹君、今この辺りではちょっとした有名人だよ?」
「どういう意味だよ?」
徹は涼を睨み付けた。
「そう怖い顔しないで?シュリのお母さんが、娘の彼氏がわざわざ埼玉から長野に引っ越して来てくれたって近所の人に話したみたいで。ここ田舎でしょ?だからあっという間に噂が広まって、僕の耳にも入ったってわけ。」
徹は心底嫌そうな顔をした。
「僕はシュリの幼馴染みの安達涼だよ。よろしくね。」
差し出された手を、徹は無視した。
涼は口を尖らせた。
「愛想ないなぁ。そんなんじゃ田舎では浮いちゃうよ?」
「別に。俺はシュリのためにここに来たんだ。周りにどう思われようが関係ねぇよ。ていうかコイツか、前にシュリが話してた女みたいな男って。」
「あ、よく覚えてたね。」
私がそう言うと、涼はわざと拗ねてみせた。
「ちょっと、女みたいな男って酷いんじゃない?確かに僕は背も低いし顔も女顔だけどさー。」
「デザートバイキング行ったり可愛い雑貨屋行ったりするんだろ?」
徹は涼を鼻で笑い、そう言った。