第16章 発覚
「そう言えば、マスターに話したから。」
「なんて言ってた?」
「シュリに、いつでも戻っておいでって伝えてくれって言われた。それから俺も…出勤できる日に来てくれればいいから、今はシュリの傍にいてやれって。」
マスターの気持ちが嬉しくて、泣きそうになった。
また、戻りたい。
大学にも、写真部にも、バイトにも。
検査から数日後、病院から電話がかかってきた。
私と母はすぐに病院に向かう準備をした。
部屋を出ると、直人が段ボールの箱を抱えて部屋から出てきた。
「あ、シュリ!…隣の方は?」
「私のお母さんだよ。」
直人は母を見て笑顔で挨拶をした。
「初めまして、池田です!今日、引っ越すんですけど…シュリさんには色々お世話になりました。」
「初めまして、シュリの母です。」
母は丁寧にお辞儀をした。
自分の事でいっぱいいっぱいで忘れていたが、今日は直人の引っ越しの日だ。
「シュリ、学校は?これからどこか行くの?」
直人には、今の状況を話したくなかった。
優しい直人は、きっと心配してくれる。
しかし、直人はこれから新しい生活を始めるのだ。
余計な心配はかけたくなかった。
「ちょっとね、お母さんが長野から遊びに来てくれたから学校休んでこれから買い物に行くの。」
私は今、上手く笑えているだろうか。
母は黙って私達のやり取りを見ていた。
「そうなんだ。最後に会えて良かったよ。」
「うん、そうだね。」
「じゃあシュリ、元気でね。」
「うん、直人も…元気でね。」
何も知らない直人は、いつもの笑顔で手を振って去って行った。
もしかしたら、本当に二度と会えなくなってしまうかもしれない。
悪い想像が頭に浮かび、私はその場に泣き崩れた。
母がしゃがみ込んで私の背中を擦ってくれた。
「シュリ、大丈夫よ。」
「あの人も…私にとって大切な人なの…っ。」
「そう…色々あったのね。」
「また会えるかな…?」
「大丈夫。きっとまた会えるわ。」
私と母はタクシーで病院に向かった。