第15章 初恋にさようなら
直人を部屋に入れた。
「急にごめんな。大した話じゃないんだけどさ。」
「どうしたの?」
「俺、今月の28日に引っ越すから。」
28日まであと1週間程だ。
「そっか…。」
寂しい、と思ったが、それは言ってはいけない気がした。
私にはそんなこと言う権利は無い。
「引っ越し先はどこなの?」
「A市だよ。ここから車で40分くらいかな。」
「そうなんだ。新しい仕事、頑張ってね。」
「俺にとっては実家に帰るようなもんだけどね。」
そう言って、直人は少し照れくさそうに笑った。
「直人、ちゃんとご飯食べるんだよ?」
「わかった。」
「お酒飲み過ぎないようにね?」
「はーい。」
他にも、伝えたいことが沢山あったが言葉に出来なかった。
「28日、平日だからお見送りできないや…。」
俯く私の頭を、直人が撫でた。
「シュリ、今までありがとう。短かい間だったけど…俺、シュリに出会えて良かったよ。」
その向日葵の様な笑顔が今は眩しすぎて。
でも、ちゃんと直人の顔を見ないと。
ちゃんと、伝えないと。
「私も直人に出会えて良かった。」
私の初恋の相手は、向日葵の様な人だった。
この先何があっても、私はこの笑顔を忘れないだろう。
さようなら、直人。