第14章 兆候
「…直人、いつ引っ越すんだろう…。」
「今月末って言ってたぞ。」
「え?なんで知ってるの?」
「さっきご丁寧に挨拶しに来た。」
今月末…あと2週間も無い。
寂しさが増し、私は俯いた。
「そんな顔するなよ。」
「だってあと少しだよ?」
「そうだけど…お前がそんな顔で見送ったら、池田も悲しいんじゃねーか?」
確かに徹の言う通りだ。
最後くらい、笑って見送ろう。
「そうだよね。もう二度と会えないわけじゃないんだしね。」
直人と私は別れた。
直人が引っ越したらもう、会うことは無いだろう。
しかし、徹は私と直人が別れたことを知らない。
だから私は、笑顔でそう言った。
ふと、徹が私の手を見て目を細めた。
「お前、なんだその痣。」
徹に言われて気付いた。
知らない内に、右腕の内側に痣ができていた。
「あれ?こんな所いつぶつけたんだろう。」
「寝てる間に暴れたか?」
「そんな訳ないでしょ!」
笑う徹を睨み付けた。
私の体の異変は、この辺りから始まった。
まさか自分が病に侵されているなど、この時は考えもしなかった。