第9章 揺れる心
直人に、今朝の出来事を全て話した。
私は今更、徹のことが心配になってきた。
「徹、なんだか様子がおかしかった。やっぱり突き放さないでちゃんと話を聞くべきだったかな…。」
直人は小さく溜め息をついた。
「羽山くんにも何か事情があるのかもしれないけど、シュリがそこまで気にする必要はないんじゃないの?」
直人らしくない発言に驚いてしまった。
「え、でも…。」
「シュリはもう少し自分の心配しなよ。羽山くんのことで精神的に少し参ってるようにも見えるし…羽山くんだって子どもじゃないんだから。羽山くんは少しシュリに甘えすぎだよ。」
穏やかで、誰にでも優しいと思っていた直人がこんな事を言うなんて…意外だった。
「なんでそんなこと言うの?」
「なんでって…シュリが心配だからだよ。」
「徹のことは心配じゃないの?」
「俺は羽山くんよりシュリの方が心配だよ。」
「徹は私の友達なんだよ?」
「俺からしてみれば、自分の彼女に好意を寄せてて尚且つ振り回して困らせてる迷惑な奴なんだよ。」
直人は少し強い口調でそう言った。
私は何も言い返せず、重たい空気に包まれる。
「…ごめん、言い過ぎたよ。」
直人は心を落ち着かせるように、煙草をくわえて火を付け、ゆっくりと煙を吐き出した。
直人が怒る気持ちも解る。
私だって直人と同じ立場だったら心から相手の心配など出来ないだろう。
これから先、直人と幸せになるためには徹とは距離を置いた方がいいのかもしれない。
だけど私は、徹が何故あんなに悲しげな顔をするのか知りたかった。
「直人、ごめんね。」
私はゆっくりと立ち上がり、挫いた足を引きずりながら玄関に向かった。
「シュリ…!」
「ちょっと頭冷やすね。今日は迎えに来てくれてありがとう。」
私は直人に背を向けたままそう言って、自分の部屋に戻った。