第1章 〜欠片〜
何時もと同じ時刻に目を醒ますと、腕の中で眠る玲がいる。
それだけで、酷く穏やかな気分になるのだから不思議だ。
起こさないように抜け出そうとするが、浴衣を掴まれていて出来なかった。
まだ起こすのも可哀想だと、濡羽色の髪をさらりと撫でる。
心地いいのか、猫のように擦り寄ってくる様が愛らしくて、笑みが零れる。
「…んぅ~…」
何度も撫でていると、次第に意識が覚醒してきたのか、うっすらと目を開けて此方を見た。
暫く固まって、ぱっと琥珀色の瞳が開く。
「あれ?えっと…あ、そか。おはよ、朽木さん」
何故一緒に寝ていたのか思い出したのだろう。
ふわりと笑っておはようと言う彼女に、少し目を細める。
「白哉」
「え?うん」
「…そう呼べ」
何故か騒つく胸の内は恐らくこの何処と無く遠い呼び方。
そう思い、玲に促すが。
「…白哉…さん」
何故か彼女は日番谷の様に直ぐに名で呼ぼうとはしない。
「…敬称も要らぬ」
「…う~…」
「何故躊躇う?」
「冬獅郎は、最初小さかったから呼びやすかったけど…なんか、その呼び方駄目な気がする…」
確かに自分は貴族だ。
一介のものが呼び捨てれば即座に首が飛ぶ程の。
それでも、自分が許せば話は別だ。
「私が良いと言っている」
「…うん、…分かった」
渋々頷いた彼女は、朝食の時には小さな声で私を呼んだ。
今はそんな些細な事で十分だった。