第11章 〜予兆〜
「にしても美味いよなぁ、此処の飯」
さっきの騒動を知らない一護が呑気に呟く。
当然だろう。
使われている食材から既に、一般人が手の届くものでは無いのだから。
玲も、此処で食べる夕食は好きだった。
高級料亭にでも行かなければ食べられない様な物が、当然の様に出て来るのだから、最初は驚きもしたけれど。
今日は各部屋では無く、広間で食事を摂っている。
それは余りにも客人が多過ぎるからで。
序でに言うなら、夜一は玲が余りにも警戒する為に消沈して、謝りたいと白哉に直接告げたからだったりもする。
既に覇気の無い夜一に平謝りされた玲は、もうしないでね、の一言でそれを許し、今は普通に接している。
ルキアは未遂だった為、取り敢えず今まで通りだった。
白哉の隣で食事をしながら、一護とルキアの掛け合いを見てくすと微笑む。
まるで子供の様なやり取りが、何だか可愛らしかった。
恐らく彼女の中で、一護が可愛いと言う認識は此れからも変わらないままなのだろう。
「なぁ、玲。お主が無茶をするのは、瀞霊廷の為か?其れとも、護りたい者がおるからか?」
少し声を抑えて問われたそれは、昼に話した浄界章の話の続きか。
「両方、かな」
言葉少なに答えたそれは、そんな単純なことでは無くて。
バランサーである死神は、調停者として護らなきゃいけない。
けれど、その死神の中に、特に護りたい者が居るから、無理を承知で力を振るう。
それが喩え、世界の意に反したとしても。
「余り気負うなよ」
「私は、出来ないことはしないよ」
呟いて、煮物を箸でつまむ。
口に運ぶと、頭の中でほぼ無意識に味付けの成分をパーセンテージで表示する情報をシャットアウトし、意識を外に向けた。