第11章 〜予兆〜
「ふぅ、白哉ぁ」
脱衣所でぶつかった嗅ぎ慣れた白梅の香りに縋り付くと、ばさばさとタオルが降ってきて、身体を隠される。
「何をされた」
私の髪を拭きながら問う彼の声は、怒りを孕んでいて。
「夜一が…「女湯の脱衣所に入ってくるとは男の片隅にも置けぬな、白哉坊」」
「貴様は出て来るな。玲が落ち着けば去る」
とは言え、此処に彼が居るのがまずい事は確かな訳で。
否、屋敷の当主なのだから、彼がどこに居ようと咎める者は居ないだろうけれど。
夜一が上がってくる気配がして、私は慌ててタオルで身体を隠し、着替えを持って外に飛び出した。
「玲!その様な姿で外に出るな」
「やだ!また身体触られるもん」
逃げる様にして飛び込んだのは彼の部屋。
其処でやっと落ち着いて、身体を拭いて髪を拭く。
自室に転がり込んだ玲が、何の警戒も見せず、身体を拭く様を見て、白哉は酷く複雑な気分にさせられていた。
頼ってくれるのは嬉しい。
が、今目の前で普通に着替えようとしている彼女は、自分を男として認識しているのかと強く疑問に思う。
裸体を見たのは初めてでは無いが、あの時は何とも思っては居なかった。
しかし今では好いた女。
視線を逸らし、理性を総動員させても、衣摺れの音が耳に付く。
白哉はふっと息を吐いて、部屋の襖を閉めた。
「玲」
「ん?」
振り返った彼女の華奢な身体を引き寄せる。
浴衣を羽織ったばかりの肢体から目が離せなくなりそうで、身体を密着させた。
「其方、私を男だと認識しておるか?」
「してる、けど…白哉は私に酷い事するの?」
合わされた琥珀の瞳は揺らがない。
映るのは無条件の信頼で。
思わず、欲に負けそうになった自分を斬りたくなった。