第10章 〜流転〜
双極の丘で、赤と青の霊圧がぶつかり合う。
戦闘を終えた隊長格達が其処へ集った。
狩矢の目的だった浄界章が完全に封印された今、最早瀞霊廷の脅威には成り得ない。
永き時を生き、己の種族の生き様に辟易していた赤目の男は、黒崎一護に一つの言葉を遺して行った。
—強大な力は畏怖の対象。”仲間”など、ただの戯言に過ぎない。いつか、奴等は離れていく。其れが力を持つ者の定め。
そうかもしれない。
ふと瞳を開いた玲は、ぼぅっと天井を見上げた。
大き過ぎる力は畏怖を呼ぶ。
長過ぎる寿命はその孤独から逃れる術を与えない。
彼は疲れ果てていたのだろう。
自分達の種族を勝手に産みだし、利用し、捨てた死神を憎み、守ろうとした仲間すら離れて行く絶望と、孤独に。
いつか自分も、同じ事を思うだろうか。
力を与え、扱い方を教えても。
所詮彼等は只の魂魄で。
元来違うモノである自分が、扱う力とは全く違っていて。
それに気付いた彼等は、どんな顔をするだろう。
恐れ、拒絶するのだろうか。
「玲?起きたのか」
安堵の色を映して緩む翡翠の瞳を見つめて、玲はそっと手を伸ばす。
触れた頬が冷たくて、自分はまだ回復していないのだと知った。
「お前、まだそんな熱が…。やっぱり、四番隊行くか?」
心配そうに揺れる瞳に心が温かくなる。
「大丈夫。反動はもう収まったから。後は天照が治してくれるよ」
異質だと、公言するような言葉にも、彼の表情は変わらない。
そうか、と呟く彼の胸に身体を預ける。
もし、私が化け物と罵られ、この場所を追放されたなら。
次に同じ様な狂気を受けてしまうだろう、天才的な力を持つ青年に。
平穏なこの時だけでも、触れていたくて。