第1章 〜欠片〜
「其方が、それが危険だと認識しているうちは、周囲に害は及ばぬであろう」
なんでこの人は、こんな事を言ってしまえるのだろう。
今日初めて会った私に。
どんな性格かすら、まともに知ってるはず無いのに。
これじゃあまるで、私を完全に信用しきってるみたいじゃない。
「なんでそんな事、言えるの?」
発した自分の声が、震えていた。
漆黒の瞳が、真っ直ぐすぎて、泣きたくなった。
「其方の瞳には邪気がない。唯、強い信念がある。私が口を挟める事とは思えぬ」
強い人だと思った。
何も知らないはずなのに。
唯私の目を見ただけで、受け入れると言うこの人が。
隠す必要なんて、あるだろうか。
冬獅郎には、流されるままに話してしまったけれど。
この人は多分無理には聞かない。
それでも、玲と言う名をくれたのはこの人で。
冬獅郎と同じぐらい、私にとっては特別な人だから。
「話、聞いてくれる?」
「…部屋へ入るか」
頷いた彼は、縁側を少し進んで、襖を開いた。
必要最低限の物しか置いてない、広い部屋。
床は当然畳で、燭台に灯りが灯っていて。
淡い光が部屋を照らしている。
布団は既に敷かれていたけれど。
朽木さんは、何処からか座布団を持ってきて、文机の近くに座った。
私も置かれた座布団に座る。
そして、防音の結界を張った。
他の人には、やっぱり聞かれると、困るから。