第5章 〜遊戯〜
「後、一つ先に伝えとく」
「何だ」
「後四半刻もしないうちに隊主会があるよ。そこで総隊長が私を何て言っても、唯のゲームだって事だけ、忘れないで」
彼は信じてくれるだろうかと、少し不安に揺れた瞳に、漆黒の眼差しが向けられる。
「何があった」
少し屈んで視線を合わせてくれる彼に、経緯を説明すると、そうかといつもの様に頷いてくれて。
「必要な事なのだろう?」
そうしなきゃならない事情は伝えていないのに、まるで何もかも見透かす様な言葉と共に髪を梳いてくれる。
「案ずるな。私は己が見聞きしたことしか信じぬ。指示があれば動きはするが、そこに感情は伴わない」
優しく撫でてくれる手に安堵して、擦り寄った。
「ありがと。夜にちゃんと説明するね」
頷いて抱き締めてくれる手が背の素肌に触れてぴくりと肩が揺れると、白哉が耳元でふっと笑った。
「…やはり隠した方が良い」
「…後で創る」
少し熱を帯びた顔を上げられずに、羽織を握って俯く。
「恥じらっておるのか」
何処か、からかう様な色を孕んだ声に応えずに彼の首元に顔を埋める。
少し気になる彼の表情も、今は見る勇気が無かった。
また頭を撫でる手に少し落ち着いて、握っていた羽織を離すと、離れた温もりにちくりと痛んだ胸に困惑する。
冬獅郎の時とは少し違う、何処か空虚さを孕んだ痛み。