第7章 紫蘭の花言葉
――夢など見ないよ、だって無駄だから。
「世界中すべてが不幸に見舞われても君ひとりが笑顔でいられるならばそれでもいいとさえ思うから。」
「佐々山の話だったな。とにかく女好きで凶暴で、実に楽しいクソヤローだと。少なくともあんな死に方をするような男じゃなかった。――死体の写真は見たか?」
「はい。」
「死体はホログラフイルミネーションの裏側に配置されていた。イルミネーションの内容は知っているか?」
「いえ、そこまでは。」
「薬品会社の広告だった。『安全なストレスケア、苦しみのない世界へ』佐々山は標本にされる前、生きたまま解体された事が分析で判明した。犯人のメッセージみたいだったよ。『苦しいだけが人生だ』ってな。それを仕出かしたヤツを同じ目に遭わせてやりたいといつからかそんな風に思うようになった時点で、監視官としての俺はもう終わってた。」
「後悔はありませんか?」
その質問に、慎也はゆっくりと首を振った。
「自分の行動に後悔はない。問題は未解決なコト、この1点に尽きる。」
「――3年前。藤間幸三郎に手を貸した共犯者…。今でも使えそうな手がかりは何かありますか?」
「あぁ。佐々山が撮った写真がある。酷くピンボケだがな。佐々山の使ってた端末に保存されていた。」
渡された写真を見ながら、朱は首を傾げる。
「この男――、名前とか?」
「画像ファイルの名前は、『マキシマ』だった。」
慎也がそう呟いた同時刻、泉も同じ名前を呟いた。
「――『マキシマ』か。」
ボソリと呟いた泉に、宜野座は目敏く視線をやる。
「泉。何を考えている?」
「別に?それよりちょっと私、単独行動するわ。」
「は?!おい、待て!泉!――チィ!」
引き止める宜野座の声も聞かずに、泉は姿を消した。
宜野座は仕方なく、慎也へ電話を掛ける。
「――狡噛。スマン。泉がいなくなった。」
『――そうか。』
「どうする?」
『何か考えがあるんだろう。そのままやらせてやってくれ。』
「だが――、また――。」
その言葉に、慎也がストップをかける。
『ギノ!――この事件は3年前とは違うんだろう?』
「――また連絡する。」
そう言って宜野座は無理矢理デバイスを切った。