第31章 完璧な世界
――その笑顔を覚えていてください、永遠に。
「怖がらないで、泣かないで、私はずっと此処にいるから。」
「――そうか。君は――。――泉。行くよ。もう少し頑張ってくれ。」
トリガーを引いても、そこから弾は出なかった。
槙島は銃を捨てれば、泉の手を引いて歩き出した。
「――聖護さんは、待ってるのね。慎也が殺してくれるのを。」
その問いに、槙島は少しだけ笑って見せた。
慎也は倒れている朱を運べば、空になった銃に弾を装填する。
「――ダ、ダメ。」
「これは俺とアイツ――、そして泉の3人だけの問題なんだ。」
「――狡噛さぁぁぁん!」
朱が叫ぶが、慎也はそのまま槙島を追った。
「誰だって孤独だ。誰だって虚ろだ。もう誰も他人を必要としない。どんな才能もスペアが見付かる。どんな関係でも取替えが利く。そんな世界に飽きていた。――でも、どうしてかな。僕が君以外の誰かに殺される光景はどうしても思い浮かばないんだ。」
血を流しすぎた槙島は、膝を付く。
後ろにいた泉はそっと槙島を抱き締めた。
「――もう終わりにしよう?お兄ちゃん。」
その言葉に、槙島の目から涙が流れる。
「――先程の言葉を訂正しよう。僕は君と出会ってからは孤独じゃなかったんだ。だって君は僕を必要としてくれたから。」
「うん。あの頃、私にはお兄ちゃんが世界の全てだった。」
泉が泣きながらそう言えば、そっと槙島は泉の涙を拭う。
「――あの頃、か。今の君にはもう僕は必要ないんだね。」
「ごめんなさい。――私は世界で一番大事な人を見つけました。でもお兄ちゃんがいてくれたからこそ今の私はここで生きていて、そして慎也に出会えたわ。」
風がそよぐ。
槙島は両手を広げて、空を仰いだ。