第29章 血の褒章
――最後に思い出したのは、
「君の隣を歩ける時間はそんなにはないから。せめて手を繋いでいませんか?」
「――絶対にその男を放すな、執行官!泉!お前はすぐに逃げろ!」
「嫌よ。この場で伸元を見捨てるぐらいなら一緒に死ぬわ。」
「バカ!俺が狡噛に殺される!」
「本望でしょう?こんな美人と心中出来て?」
この状況下で軽口を叩く泉を、宜野座は呆れるように見上げる。
「お前さん、正気の沙汰じゃないぜ。義妹の事も殺すのか?」
「そうなるのならそれはそれで運命だったと諦める。けれど――、僕には君が助けに行くと言う絶対的な勝算があるがね。」
ニヤリと笑えば、槙島はダイナマイトを二人に投げる。
その瞬間、征陸は槙島を放して走り出した。
「うぉぉぉぉ!」
思い切り泉を突き飛ばせば、征陸はダイナマイトを拾って空中へ投げる。
「智己さん!」
弾き飛ばされた泉は、壁に叩きつけられながら征陸の方を見る。
そしてその瞬間、ダイナマイトは征陸の上で爆発した。
「――ッッ!!!!」
声にならない叫びを上げて、宜野座は自力で瓦礫の下から這い出れば征陸の側に寄る。
「智己さ――、ぐっ!」
立ち上がろうとした泉を、槙島が後ろから掴み上げる。
「――悪い子だね、泉は。どうして僕の敵に回った?」
「――聖護、さ――!」
苦しそうに泉が呻けば、その瞬間槙島の前を銃弾が掠める。
「泉を放せ、槙島!」
現れた慎也に口角を上げれば、槙島は泉を抱え上げてその場を去る。
側に寄った慎也の目に飛び込んで来たのは、宜野座と血塗れの征陸だった。
「――とっつぁん!――ッッ!」
慎也は歯痒い気持ちを抑えて、そのまま二人の後を追う。
残された宜野座は、泣きそうな声で叫ぶ。
「バ、バカ野郎!なんで犯人を逃がした!なんで――、アンタはデカだろう?!」
「デカなんてロクなモンじゃねぇよ。――やっぱ親子なんだなァ。目元なんざ若い頃の俺にソックリだ。」
そっと頬に触れていた手が力を無くす。
「親父――!親父ぃぃ!なんでだ、なんで――!遅すぎるだろうがァァァ!」
宜野座が泣きながら叫ぶ。
けれども征陸がそれに答える事は無かった。