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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第27章 透明な影


――さようなら、昨日までのきみ。




「貴方の暴言に癒されるなんて俺も相当マゾですよね、知ってましたけど。」





「――ハイパーオーツ?」
『今この国の食卓に並ぶのは、99%がハイパーオーツを原料とする加工食品です。究極の収穫効率を誇る遺伝子組み換え麦、ただ一品目に依存しています。多様性を失った大量の「単一種」。成程、一つ致命的な欠陥が見つかれば一気に全滅する可能性もある。』

その書き込みに、雑賀は眼鏡を抑える。

「これが槙島の次の狙いかも。」
「食料の自給か。」
「はい。この手があったかと。農作物、生産体制、遺伝子組み換え。その辺りの資料、有りませんか?」
「――任せろ。」

その時、丁度泉が書斎に現れた。

「――義兄はどうしてもこの世界を許せないのね。」
「泉。槙島を理解しようとするな。呑まれるぞ。」

書斎の本を探っていた慎也が言えば、泉は頷いた。

「人口の激減とシビュラシステムの完成により、人口の都市部への一極集中は歯止めが効かなくなった。だが人は動けても土地は動かせない。農地に置ける第一次産業は最早完全自動化を余儀なくされた。」

プリントアウトした紙を、雑賀は読み始めた。

「ドローンによる作業の機械化。遺伝子改良されたハイパーオーツと善玉ウィルスによる疫病対策。こうして完全無人化農耕システムが完成した事により、この国から農業と言う職種は消え失せた。今では北陸全域が人口ゼロの巨大穀倉生産基地。」
「もし仮に農作物の健康管理にトラブルが生じたら?単一品種のハイパーオーツは疫病によって壊滅的な被害を被る。」

雑賀の言葉に、慎也は頷く。

「自給体制が崩壊すれば日本は再び食糧を輸入しなければなりません。他国に対するコミュニケーションを拒絶していたそれを急激に改めねばならない。」
「食糧不足によって日本国内全体の犯罪係数が上昇。」
「食料輸入を解禁すれば、国境警備はどうしても緩めざるを得ない。難民の流入も始まるでしょうね。そうなれば犯罪係数の測定そのものが無意味になるわ。」

慎也の後ろにいた泉が呟く。

「それを実現する為には――。」
「専門家の力が必要です。今、槙島は――。」

窓の外を睨みつける慎也の腕を、泉はそっと握った。
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