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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第22章 鉄の腸


――言葉で分からないのなら、もう語らないよ。



「許してもらえるだろうか。君の思い出と生き続けることを。」



「君の知性、思深なる洞察力。それはシビュラシステムの更なる進化の為に、我々が求めて止まないものだ。強引な手段で君をシステムの一員に取り込む事は出来なくは無いが――、『意志に基づいた行動のみが価値を持つ』と言うのは君の言葉だったよね?」

そう問われて、槙島は思わず笑いそうになる。

「君ならば僕の説明を理解した上で、同意してくれると判断したんだ。」
「機械の部品に成り果てろと言うのも、ゾッとしない話だな。」
「勿論、これは君の固体としての自立性を損なうような要求では無い。現に今も僕はこうして藤間幸三郎としての自我を保っている。――君は唯、一言『YES』と頷いてくれるだけで良い。」

そっと槙島は赤いハードカバーをなぞった。

「ここにある設備だけで厚生省に向かう道すがら、外科的な処置は完了する。槙島聖護と言う公の存在は肉体と共に消失するが、君は誰に知られる事も無くこの世界を統べる支配者の一員となる。」
「――まるでバルニバービの医者だな。」

どこか嘲笑うかのように槙島は呟いた。

「何だって?」
「スウィフトの『ガリヴァー旅行記』だよ。その第3篇。ガリヴァーが空飛ぶ島ラピュータの後に訪問するのが、バルニバービだ。バルニバービのある医者が、対立した政治化を融和させる方法を思い付く。二人の脳を半分に切断して、再び繋ぎ合わせると言う手術だ。これが成功すると節度のある調和の取れた思考が可能になると言う。この世界を監視し支配する為に生まれて来たと自惚れている連中には何よりも望ましい方法だとスウィフトは書いている。」
「――聖護くんは皮肉の天才だな。」
「僕では無く、スウィフトがね。」

その瞬間、二人が一気に動いた。
ドミネーターを蹴飛ばせば、槙島は禾生の上に馬乗りになる。

「場所が分からないうちは抵抗しないと考えたんだろうが、相変わらず君は詰めが甘い。さっきの『厚生省に向かう道すがら』と言う事は、あれで移動中だと仄めかしてしまった。ここは公安局の中では無い。だから逃げられると僕は判断した。」

抑揚の無い声で言いながら、槙島は四肢を折って行く。
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